日本財団 図書館


 

は詳しく説明されてもよく分からないので(あるいは分かろうとはせずに)、最終的にはおまかせし、信頼しうる施設を選ぶ方法をとる。評判や設備の充実なども選択基準になるかもしれない。ところが、今回の調査では、緊急時の対応や交通の便が分娩施設選択の最大の理由であった。加えて、先の国民の生活指標では医療・福祉の充実度が全国の最下位であった事を考えると、多くの選択枝から選ぶというよりは、とにかく安全に産むことが優先していると考える。
また宗像はおまかせ主義は、察し合いの心から成り立つとも述べており、これを妊・産婦に当てはめると「察してほしい」「察してくれて当然」で、余計なことを言って自分を不利な方向へ追い込まない意味の消極的態度とも考える。
最後におまかせを妊・産婦対医療関係者の観点からみると、医療者は分娩を一方的にコントロールでき、問われなければあえて分娩経過中に処置や方針を説明しなくてもすみ、妊婦の都合よりも医療者にとって都合のよい方向へ治療やケアをもっていける可能性がある。一方、妊・産婦側もすべてを医療者にまかせ、例えば陣痛がきても自分が産むというより産ませてもらうという依存的態度に陥りやすい危険がある。今回の調査では自分の体験をそれなりに納得し、肯定的に受け止める傾向があった。こうした体験的学習効果が高い中でおまかせ意識があることは医療者への不信感が生じる土壌であるとは考えにくく、昔ながらの患者・医療者間の信頼関係が残っていると考える。

 

8. 仮説8:(分娩経験の有無により、分娩環境・分娩方法・分娩に携わる者に対するニーズが異なるであろう)
分娩環境のニーズでは、経産婦は過去の出産経験から自分のニーズに一致する具体的な施設・設備を希望していた。
分娩方法のニーズでは、全体の8割以上の妊婦が、自然な出産を希望し、特に経産婦の希望が多かった(P<0.01)。しかし、経産婦は過去の出産で受けた処置を肯定していた。これは過去の出産時に受けた処置に対し、「必要があれば仕方がない」「医療関係者にまかせた方が安心」という経験的学習によるものと推測される。
よって仮説8.「経産婦は出産経験によって、より理想的なニーズを持っているであろう」は否定された。しかし、自然分娩のニーズとおまかせ的態度が交錯する中で、経産婦の方が希望を有意に伝えていることは、現状を肯定しながらも、より満足度の高い出産を望んでいることが推測される。
分娩に携わる者に対するケアニーズでは、初・経産婦ともニーズは強いが、初産婦がより強くもっていた。これは、初産婦の方が未知の経験に対する期待や不安が大きいためと推測される。経産婦は前回の出産経験からより安全で、自然な出産を期待している事からも、両者間のニーズの違いが明確となった。
このことは初産婦・経産婦の特性を踏まえた、医療従事者の関わりが不安のない、満足のいく出産につながる事を示唆している。

 

9. 仮説9:(満足のいく出産をしたいと思っているであろう)
出産に対する考えから、妊婦は満足のいく出産をしたいと考えていることが明らかになった。また、初産婦が経産婦よりほとんどの項目において、有意に満足のいく出産をしたいと考えていた。この結果、初産婦は不安があるものの、初めての出産に対し強い期待を持っており、悔いのない取り組みをしたいと’いう心境が推測された。経産婦は過去の経験を生かし、より満足な出産をするために、主体的態度で臨みたいと考えている事が推測された。分娩の満足感に影響を及ぼす因子について、中重ら18)は、プラスの影響を与える因子として、?@安全性、?A自分の行動、?Bサービス内容、?C施設環境をあげている。今回の調

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION